”夢の最中”

最近、「夢」というモチーフによく出会う。

出会う、というか、小生自身が「夢」というものを意識する傾向があるのかもしれない。

 

12月の半ば、小生は友人の役者さんのお芝居を観劇させていただいた。

『夢見るふたり』

という芝居である。

 

このお芝居、とても面白く、小生は二度にわたってお伺いした。

お芝居はやはり、説明するものではないと思うのだが、あえて試みてみようと思う。

少しでも、伝わってくれればありがたい。

 

舞台の幕が上がる、そこには女子高生とその担任の先生がいる。

進路指導を受けているところだ。

 

先生が「浅野ぉ、なんでお前、進路調査票、空欄で出してきたんだ…」と問う。

肝心の生徒はだんまり。

もう一度、「浅野ぉ」。

しばしの沈黙の後、その生徒がやっと口を開く。

「浅田です。」

え?

「浅田です。先生、私の名前ちょくちょく間違えてます。」

浅田という生徒。名前の間違いを全く気にしていない、とは言うものの、完全にキレている。

ちなみに、先生が浅田の名前を呼ぶ際の正解率、3割3分3厘、とのこと。

担任している生徒の名前を間違える、なかなかにヘヴィな事案である。

だが、これを会話のきっかけとして、先生が”浅田”に迫る。

「お前なんかやりたいことないのか?ほら、その…夢、とか。」

「夢?なんですかそれ、生きていく上で必須なんですか?」

と問う浅田。

「まぁ、そうだな…生きていく上で、指針みたいなものにはなるんじゃないか?」

と弱腰の先生。何を隠そう、この先生自身、その肝心の夢を持ったことがないらしい。「惰性で生きてきた」という自負さえある。

浅田、「必須なんですか?」

先生、「まぁ…ないよりは、あったほうがいい…だろうな…」

浅田はキレる。

「私は教育課程で定められた教科では、すべて3以上の成績をとってきました!それは、それが人生を生きる上で必要だと考えていたからです!それが、高校を卒業するという段になって突然、”夢”などという得体の知れないものを尋ねられ、更には答えを迫られる!”夢”が必要だと言うなら、義務教育で教えてください!国数英理社、そして夢!必修科目じゃないですか⁈」

たじろぐ先生。

浅田は畳み掛ける。

「私の夢はなーーーんだ」

もはやナゾナゾである。

 

そもそも、その先生自身が夢をもったことがないのである。

手も足も出ない。

目の前にいるのは、たった一人の生徒だが、四面楚歌と言っていい、そんな状況だ。

悩んだ挙句、先生は逃げる。それはもう、あっさりと逃げ出す。

指導室を出て、一目散に。

 

そんな先生が向かった先は、アイドルのライブ。

どうやら、ずっと贔屓にしているアイドルらしい。

教員という立場上、大っぴらにはできない趣味だと言うものの、リュックから取り出したのは、法被とペンライト。

俗に言うガチ勢である。

 

そんな先生を、浅田は追いかける。それはもう必死に。

「アイツ、絶対許さねぇ」と血眼になりながら。

そして、ライブ会場に足を踏み入れる。

 

ライブが始まる。

先生は周囲のファンと大いに盛り上がっている。

 

そんな様子を見ていた浅田に、怒りの感情は失せていた。

「大の大人ばかりだが、なぜこんなにも、みんな輝いているのか…」

浅田にとって、それは初めての夢との出会いになる。

 

浅田も、ボルテージが最高潮に達したファンたちとともに、躍り狂う。

その様子を偶然、先生が目にする。

先生は、そんな浅田に釘付けになる。

「あんなに輝いている浅田は見たことがない…なのになぜ、私以外、誰も彼女に気付かない。あんなに輝いているのに…私は、私は彼女のこんな魅力を多くの人に伝えたい!私は、浅田をアイドルにしたい!」

それが、先生にとっての初めての夢となる。

 

その後、先生をマネージャーとして、浅田はアイドルを目指す。

”人見知り系アイドル”として、グルメリポーターとして、ラジオパーソナリティーとして。

だが当然、大ブレイクとはいかない。

そうこうするうちに、何年もの月日が経っていく。

仕事は減る一方。

年齢は50を回った頃だろうか。

最後に残った、ラジオ番組の打ち切りの知らせが入る。

だが浅田には、焦燥も失望もない。

ただ一言「もう夢見るの、諦めましょうか。」と先生もとい”黒井さん”に、一抹の寂寥を抱えながら、優しく語りかける。

「なぁんで、僕が言おうと思ってたこと分かっちゃうんだよぉ…」黒井もまた、幾ばくかの喪失感を噛み締めながら、申し訳なさそうに、浅田に同意する。

 

それからまた何年か。

黒井が老人ホームに入居することとなる。

「俺はまだそんなに老け込んでない。」ぼやきながら着いた、その老人ホームには、浅田も入居していた。

浅田は、入居者の方たちに好かれる、そのホームの”アイドル”のような存在になっていたようだった。

それが、別に浅田たちの夢を叶えたことになったわけではない。

ただ、お互いに歩んできた道が、最後の最後で交叉する。

そんな穏やかさがある。

ハリウッド映画のような大団円ではない、大きな感動も、手に汗握るような興奮も、そこにはないのかもしれない。

ただ、もしかすると、”夢”って、こんな風にふわっとしてて、儚いけれども、それでいて少しばかり人生を彩ってくれるものなのかなぁ、なんてことが心に沁みてきた。

 

 

さてさて、打って変わって。

 

12月26日、27日、『日韓友好TOKYOドラマフェスタ』という私立の中学校・高校の演劇の発表会を観に行ってきた。

場所は、白山にある京華女子中学・高等学校。

とても素敵な校舎と、会場となった講堂に感激したのだが、それ以上に中高生たちのお芝居に本当に感動した。

 

「小劇場の芝居や舞台役者と比べても云々」なんて言い回しは使わない。

 

とにかく、もうめちゃめちゃに輝いていた。

 

ステージに上がり、ライトを浴びて、今ここにはない世界の住人として、ある限られた時間だけ生を享ける。

 

その生を享けた者が、その限りなく作為的な生を全うする。

その限りなく作為的な生を、作為ととるのも、その作為の中に、何らかの意義を見出そうとするのも、どちらも同様に人の性だが、そんな性があるからこそ、演劇という芸術が成り立つのかもしれない。

演劇のマジックのタネはそこにあるような気がする。

 

高校演劇など、そういったものに縁のなかった小生は、演劇のプロセス、一本の芝居がどのように出来上がっていくか、というプロセスではなく、役者や演出家、脚本家、音響、照明、衣装、それぞれ人間の、舞台における生との向き合い方がどのように育まれていくのか、ということを知らずに首を突っ込み始めた。

今回、中高生の演劇を観れたことで、少しばかりではあるが、そのプロセスを想像するヒントを得られたように思う。

 

小生はもう、どう頑張っても高校演劇を通じてするような演劇体験をすることはできない。

年齢的なものが一番大きい要因だが、加えて、小生の演劇に対する興味も少々複雑であるからだ。

 

だとすると小生に残された道は、想像力を働かせることしかない。

そのためには、そういった経験を積んだ方々と関わったり、そういった方々のお芝居を観たりして、信頼できるリソースを手にしていくことが肝要であろう。

 

だから、こうして中高生の演劇を観れたことは、小生にとって本当に大切なことだった。

 

まぁ、小生の糧として云々よりも、単純に演劇と向き合う彼ら彼女らの姿が、容易には言い表し難いほどに魅力的だったのだから、紛れもなく、よいものを観させていただいたということだ。

 

彼ら、彼女らはおそらく夢の途上に、小生と同じように、ある。

その道を、迷いながらでもいい、心折れてもいい、違う道を歩み始めても構わない。

ただ、できるならば、自分自身が望む道を歩んでいってくれたら、と。そう願う。

 

長々と、様々なことをしたためてきたが、最後に、最近小生が好んで聴く、リベラルというラッパーの『夢の最中』という曲の歌詞を書き起こしてみたものを載せておきたい。

夢の最中にいることを、誇張せずに肯定している感じが、小生にとってはグッとくる。

 

『夢の最中』

 

口火切ったら最後、鐘の音が鳴り出す

擦り切れたプライド、今すぐ剝ぎな

勘ぐり出すなよ昨日のカルマ、今さら泣いても二度目はなしだ

「売れない」、「売れない」

現状から、俺を信じる奴と積み上げてきた

思想をラップで絵に、描いた分

惜しまずベット、エビでタイを釣る

ここじゃカッケぇことばっか言うが、夢を見させてほんの数分間

リアルに化ける、たわ言もいつか

手のひら返すなら、今のうちだ

大きくなって、この胸で脈動、小さなグラスで交わした約束

あなたはまだ、覚えてますか

俺ならまだ、夢の最中

 

あの日、別れた二つの道や、無力さに泣いたあの感情も

もし、答えを知れるとしたら

歩んだ道は正しいですか

もし、行く末が絶望でも、自分で選んだこの生き方を

恨んだりするのでしょうか

答えを、この足で、確かめに来た

 

北風は絶えずこの頬を打つが

追い風に変わる、チャンスは来るはず

見ろ、俺もまだ食えちゃいないぞ

お前らもできる、同志にファイト

 

ラッパーの武器は言葉と経験

目を、逸らすな、音じゃないエヴリデイ

分かりづらいならもう一度言う

ラッパーじゃなくて、人として生きな

 

変化を忘れた人間たちが

どうなるかもこの目で知った

もし、マイクを捨てるとしたら

それは、更なる高みを、目指す時だ

 

寝る間も惜しまず、金なら稼ぐ

そいつをお前にくれてやるから

薄っぺらで埋めてく小節なら、そのヴァース俺にキックさせな

 

あの日、別れた二つの道や、無力さに泣いたあの感情も

もし、答えを知れるとしたら

歩んだ道は、正しいですか

もし、行く末が絶望でも、自分で選んだこの生き方を

恨んだりするのでしょうか

答えを、この足で、確かめに来た

 

当時じゃ、想像できないことが

今の俺の、日常になった

今、想像のできる未来を、諦めるには、早すぎるから

当時じゃ、想像できないことが

今の俺の、日常になった

今、想像のできる未来を、信じて止まない

表現できると

 

あの日、別れた二つの道や、無力さに泣いたあの感情も

もし、答えを知れるとしたら

歩んだ道は、正しいですか

もし、行く末が絶望でも

自分で選んだこの生き方を

恨んだりするのでしょうか

答えを、この足で、確かめに来た

 

エヴリバディ

夢の最中